◇工作機械の故障とトラブルシューティング
長く工作機械を扱っていると避けて通れないのが、機械の故障や不具合です。
発生のタイミングは予測が難しく、一度トラブルが起きれば稼働が止まり、生産計画に大きな影響を及ぼします。
摩耗や劣化が目で見える箇所なら早期発見も可能ですが、電気系統やカバー内部に隠れた部品は、ある日突然動かなくなることも珍しくありません。
お盆前後、弊社でもマシニングセンタ「NVX7000」が故障し、改めて設備保全の難しさを痛感しました
◇故障の内容:ドアインターロック不良
今回の不具合は、ドアインターロック関連のトラブルでした。
「ドアが閉まっているのに閉まったと認識されない」
「閉まった信号が制御装置まで届いていない」
といった内容のエラーが発生しました。
弊社では、基本的に可能な範囲は自社で修理を行います。まずはドア上部のロックスイッチを新品に交換。
DMG MORIのサービス担当者によると、このロックスイッチは故障の例がちょこちょこあるらしく、特にNVX7000のように重量のある大型ドアを持つ機械では、閉じた際の反動が部品に負担をかけやすいそうです。
左の写真のドアロックスイッチはIDEC製で、全体が樹脂製。大型ドアに対してやや華奢な印象を受けます。
交換後しばらく運転を続けると、同じアラームが再発しました。
発生時間は交換前後ともに14時~15時頃。新品スイッチの不具合の可能性は低いと判断し、 下流側のユニットが怪しいだろうという判断になりました。
下流の信号集積ユニットは制御盤内にある弁当箱サイズの部品で、ドアや安全装置関連の信号を取りまとめています。
サービス担当者来訪時には症状が出なかったため、ユニットだけを預かり次に不具合が発生した際に交換。結果アラームは発生せず、おそらく原因がユニットにあったことが判明しました。
右の写真が集積ユニットです。交換した際ユニットは熱くなっており、長時間稼働後に熱暴走していたと推測されます。朝点検時に不具合が出なかったのは、冷えていたからでしょう。
こうして原因を突き止め、NVX7000は再び安定稼働に戻りました。
◇定期保全と事後保全の選択
この事例から考えさせられるのは、設備の「定期保全」と「事後保全」のバランスです。
定期保全は部品の寿命を見越して交換し、突発的なトラブルを防ぐ方法です。停止リスクは減らせますが、部品や工数のコストが増えます。
事後保全は故障したら修理・交換する方針で、コストを抑えられる一方、稼働停止による納期遅延リスクを伴います。
弊社は単品・小ロットの仕事が中心で、機械の稼働率は量産工場と比べて低めです。そのため故障のタイミングはあてにならず、すべての部品を一律に定期交換するのは非効率。ですので基本的な点検はしていますが基本的に事後保全で進めています。
◇エンジニアの視点:再現性とトラブルシューティング
今回のような電気系統のトラブルは、原因の特定が難しいことも多いですが、精密加工機械は構造や動作が安定しているため、現象の再現性が比較的高いかなと思っています。
トラブルシューティングは以下の流れで進みます。
・症状の観察と記録
いつ、どんな状況で異常が出るのかを確認します。今回は「14~15頃に発生」という共通点が手掛かりになりました。
・仮説の立案
部品寿命、電気信号経路、熱による影響など可能性のある要因を洗い出します。
・原因切り分け
部品単位で交換やチェックを行い、故障箇所を絞り込みます。
・修理・交換と再発確認
部品交換後は同条件で稼働させ、症状が消えるか確認します。
この手順を繰り返すことで、原因を突き止め、根本的な対策を講じることができます。
これは加工の際に起こったトラブルにも、日常起こる問題にもなんでも当てはまる考え方ですね。
◇まとめ
今回のトラブルは比較的軽微なものでしたが、機械の稼働を止めれば生産に直結する問題となります。精密機械は動作条件が安定しているためトラブルは比較的同じ条件で再現しやすく、原因究明もしやすいと思っています。
保全は「定期保全か事後保全か」の二択ではなく、機械の重要度や代替性、稼働率を考慮したその会社ごとの柔軟な方針が必要だと感じています。
一見地味なトラブルシューティングの積み重ねが、生産の安定を支える基盤であることを改めて実感した事例でした。
専務取締役 西山尭伯